2002年6月、日本精神神経学会の臨時評議会は「精神分裂病」という名称を破棄して「統合失調症」という名称に変更することを決定した。
まことに大きな意味をもつ変更である。
しかし、この専門領域に詳しくない者からすると、精神分裂病と統合失調症では同じ症例らしいのに、あまりにもイメージの違いがありすぎる。けれども日本はこの変更に踏み切った。むろん、歴史は新たに編集されればよい。
訳者があとがきで断っているように、本書はこの決定が世界精神医学会で発表される以前に翻訳刊行されるため、訳語は精神分裂病または分裂病のままになっている。だからぼくもこの言葉をつかっておく。ただし躁鬱病のほうは、最近改められた「双極性障害」になっている。もっともこの名称もはたして症状を想起させたり、刻印するのにふさわしいのかどうかはわからない。 さて、そういう事情とはまったくべつに、この本が提案している結論というのか仮説というのか、その主張はきわめて蠱惑的であって、かつ衝撃的である。
その中心にある仮説は、分裂病の起源は人間の起源に密接に結びついているのではないかというものだ。
この根拠のひとつは、さまざまな調査研究によっても、分裂病の分布には人種差がまったく認められないということにある。もしそうならば、あいだの説明をとばしていうと、「狂気こそは人類への贈りものだった」ということになる。狂気は「人間以前」にあったということになる。著者の推定では、なんと14万年前に分裂病がすでにあった。そのあとに人種が分かれたのだった。
これだけでも驚くべき仮説だが、医学者であって分子細胞生物学にも考古学にも栄養学にも深い関心を示す著者は、次々にどぎまぎするような仮説(真相?)を繰り出している。これをまとめていうと、次のような意外なものになる。 ヒトとチンパンジーの遺伝子上の差異はごくわずかである。だいたいヒトの遺伝子の40パーセントはイースト菌と同じだし、60パーセントはミミズと同じ、80パーセントはネズミと同じ、チンパンジーとは98パーセント以上が同じになっている。
これらの差異はほとんど突然変異によってもたらされたもので、その分子進化的には偶然の突然変異がゲノムの特定の部位に蓄積された。いま、Y染色体、常染色体、ミトコンドリアを調べると、そのレコードの痕跡がかなり正確に読みとれる。たとえば南アフリカ
0コメント